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        誤解

 「あら、珍しい。元気でいたの?」

「元気よ。お母さんたちは?」

「元気よ。心配してくれてるの?お父さんはいつもと同じ。食事以外は部屋から出てこないの。引きこもりみたいね」

「部屋で何してるの?」

「音楽は聞こえて来るけど。何してるんだかね。ところで何か困ったことがあるんじゃないの?話してごらん」

「・・・私、子供が出来たの」

「えっ、どう言うこと?子供が出来たって言ったわね。本当なの?男の子?女の子?相手はどんな人?」

「まだ生まれていないの。今4カ月なの。黙っていたけど、私結婚したの。嬉しくお母さんに知らせたかったの」

「どうして黙ってたの。そんな大事な事。帰ってらっしゃい。話聞かせて」

「怒ってるの?あーあ、電話するんじゃなかった」

「怒ってませんよ。私達が悪かったんです。ごめんね。帰って来て話を聞かせて。お父さんもずっーと心配してたのよ。結婚しないのは自分のせいだって・・・」

 母のすすり泣く声が聞こえて来た。

「お母さん、心配させてごめんなさい。お父さんによろしく言ってね。電話切るね」

「ちょっと待って、お父さん呼んでくる」

「良いの、よろしく伝えてね」

「いつ帰って来る?話聞かせて」

「帰りたいけどコロナ感染が怖いの。家からも買い物以外は出ないのよ」

「私達が行くわ。住まいを教えて?」

「駄目よ、それじゃ同じよ。妊娠中なのよコロナは怖いの。治まったら帰るからね。お父さんに宜しく言ってね」

 電話を切ると何だかほっとした。ずっと迷っていた。彼にも何度も言われていた。挨拶に行きたいと。

 彼には両親がいなかった。母は彼が小学二年の時、父と離婚した。育ての父は5年前脳梗塞で亡くなっていた。兄弟はいない。天涯孤独と言って良かった。

 携帯電話が鳴った。再電話ボタンを押しての電話だった。

「加奈ちゃん、相手の人のこと教えて。何の仕事をしているの?歳はいくつなの

「あ、そう言うことね。会社員よ。電気メーカーに勤めているの。40歳よ。今、私達名古屋に住んでいるの。先月転勤してきたの」

「ご両親にはお会いしたの?」

「それは良いの。今度詳しく話するね」

「大事な事よ。私達もご挨拶したいのよ。どちらに住んでらっしゃるの」

 その時、玄関のブザーが鳴った。

「お母さん、切るね。帰って来たみたい。また電話する」

「お帰んなさい!早かったのね」

「電話してたのか?はい、お土産」

「ケーキね。嬉しい!」
                    つづく
次回は2月12日金曜日朝10時に掲載します