-
          覚悟の失業 2.

 「どうしてもお話したいことがありまして、ほんの少しで良いんです。お時間頂けませんか?」

「…少しでしたら」

「ありがとうございます。では、そこのカフェで」

 10m程先にカフェがあった。そのすぐ先は駅である。言葉の流れで急いでいると言ったか、別に用はない。

 店内は広々としていたが、客は自分たちを除いて2組しかいない。4人席に斜め合わせに座った。

 珈琲はすぐ運ばれて来た。

「どうぞ!」

 男は彼女に珈琲を勧めた。そしてマスクを外した。彼女はあれっと思った。やっと思い出した。

 鼻の穴が見事に上を向いていた。演歌の大御所歌手の鼻が似ていた。彼女はすぐに下を向いた。マスクを取ると、

「いただきます」

「ブラックですか。僕もそうなんですよ」

「ところで、お話って何ですか?」

「実はないんです。あなたとお話がしたかったから嘘つきました。すみません。この通りです」

 男はテーブルに両手を付いて謝った。その上を向いた鼻の笑顔で言われると怒る気になれない。思わずくすっと笑った。

「可笑しいでしょう。みんな僕の顔をじっと見て笑うんです。ところで、どうしてお辞めになったのですか?」

 看護師仲間では噂になっていた。マスクのままだと素敵なイケメン青年であるが、外した時の落差が凄いと。

「一身上の理由です。お話出来ません」

「当然ですよね。でも病院から大反対されたでしょう。僕なんか首ですよ。自爆事故ですからね」

「まさか…?」

「違いますよ。自殺ではありません。スマホ見てて電柱にぶつかりました。カラスを避けようとしてと言ったのですが、ばれちゃいました」

「……」

「カラス等いないところでしたから、問い詰められてばれちゃいました。裁判はこれからでしょうが、多分取り消しでしょう。会社は首になる前に辞表を出しました」

「それでお仕事を探していらっしゃるのですね」

「そうです。探し始めて1カ月近くなります。免許が無いと全然だめです。貴女はお綺麗ですからいくらでもあるでしょう」

「いいえ、ありません。頑張って下さいね。私はこれで失礼します」

 伝票を見ようとすると、

「ここは私がお支払いします。僕が誘ったのですから」

 男は伝票をさっと取り、入口の支払いカウンターに向かった。一緒に店を出た。駅まで一緒に歩いた。

 改札の前に来ると男が、

「どちらまでですか?」

「新宿です」

「偶然ですね。僕も新宿です」

 入って来た電車に彼女が座ると、男は隣に座って来た。電車が走り出すと、彼女はだんだん不安になって来た。

                      つづく
次回は7月23日金曜日朝10時に掲載します