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            心の隙間 5.

 アパートに帰り着くと吉沢の顔が頭に浮かび淡い気持ちになった。しかし、直ぐに落ち消した。

 自分に会ってがっかりしたと思う。広瀬は自己嫌悪に陥った。整った顔をしているわけでもなく。話題も少ない。

 きっと印象が悪かっただろうと思い、この出会いは諦めた。もともと降って湧いたような話だった。

 相手が綺麗すぎた。自分には釣り合わないと思いながらふと思い直した。綺麗じゃない人となら釣り合うのか?

 身の程と言う言葉があるが、自分の身の程とはどんな人だ?美人でない人?心が動かないだろうな。

 世の中には美女と野獣のようなカップルが沢山いる。どうやって知り合ったのだろう。

 自分は野獣程ではない。普通と言える。自惚れではないが並み以上であると思う。良く知的な顔だと言われる。

 今年38歳になる。人を好きになったことは幾度かあるが、恋愛をしたことは無い。片思いの人生だ。

 ひよっとすると世の中の基準と自分の基準が違うのかも知れない。独身主義ではないが一生独身になるかも知れない。

 スマホが鳴った。佐竹からだった。

「おい、どうだった?」

「綺麗な人だな。本当に彼氏いないのか?」

「それでどうなんだよ。付き合ってみないか?」

「馬鹿だな、俺が良くても彼女がNOと言うよ」

「それがな、彼女がお付き合いしても良いって言ったらしいよ。まさかと思ったがね」

「嘘だろう!担ぐなよ」

「いや、本当なんだ。玲子(菊池)がそう言ってるって教えてくれた。来週の土曜日みんなでボーリングに行こうよ」

「良いね。行くよ。でも本当にお付き合いしても良いって言ったのか?」

「くどいな、美女と野獣と言うだろう。正直俺も彼女を見て驚いたよ。美人だよな。いてっ!何するんだよ!」

 電話の向こうでは、佐竹が彼女にどこかつねられたらしい。

「じゃーな。場所が決まったら連絡する」

 広瀬は電話を持ったまま放心したように立ち尽くした。心がバラ色に染まって行った。
                      つづく
次回は4月30日金曜日朝10時に掲載します