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                心の隙間 3.

 友人の佐竹が気を利かせて妙におかしな話をする。佐竹の彼女菊池もその友人吉沢もくすくすと笑いながら聞いている。

「その高校生、マスクをずらしてはおにぎりを頬張っていたんだが、急に思いついたようにお茶のペットボトルを取り出した」

「ところがいけない。蓋を開けようとしておにぎりを落としてしまった。すぐに拾ったが少し考えて袋へ入れた」

「かわいそう。それで別のを出して食べたわけね」

「おにぎりは他になかったようだ。袋からコッペパンを出して外装のビニールを破り始めた。その時、蓋を落とした」

「良くやるのよね。それでどうしたの?」

 菊池が続けて聞く。吉沢も興味深々だ。

「パンとペットボトルを座席に置いて立ち上がった。それを見た向かい席のおばさんが立ち上がり拾ってくれた」

「高校生はありがとうございますと言って受け取った。その時、電車にブレーキがかかった。ボトルは倒れた」

「すぐに手で掴んだが殆どこぼれてしまった。座席が濡れた。隣の紳士のズボンも濡れた」

「はい、これで拭くと良いよ」

 紳士は怒りもせず、ポケットティッシュを渡した。丁度、次の駅に着いた。紳士は濡れたまま降りて行った。

「素敵な紳士ですね。最近は見て見ぬ振りする人が多いですから」

 吉沢が感心したように言う。

「へへーん、その紳士は実は僕なんだ。すぐトイレに駆け込んで拭いたよ。お茶だったから大丈夫だったよ」

「なんだ、ティッシュぐらいのことで自慢がしたかったんだ。情けないわ。それに自分のこと紳士だって」

 菊池ががっかりしたように言う。

「違うよズボンを汚されて怒っていたんだ。電車の中で食事をするなと言いたかった。珈琲だったら大変だったよ」

「それを堪えて、平然としてティッシュをお渡しになる。なかなか出来ることではありません」

 吉沢が微笑みながら言う。

 それを聞いていた広瀬は、なんだか嫉妬したような気持になった。

「電車の中で食べ物を食べる高校生は結構いるね。部活とか塾とか忙しいのだろうね。ある意味かわいそうだよ」

 広瀬は高校生に理解ありげのことを言った。何か言わなければと思ったのである

                      つづく
次回は4月16日金曜日朝10時に掲載します