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         マスク美人 6.

 「おいしいお蕎麦でした」

「おいしいですね。何とも言えなく上品なんですよね。でも、量的にも上品なんです。だからいつもは2枚頼みます」

「実は私、2軒続けて食べられるかしらと心配だったのです。でも大丈夫です」

 森山は首をすくめるとにっこり笑う。茶目っ気な表情だ。その気さくな表情に山本は嬉しくなった。

「近いですから、ゆっくり歩いて行きましょうね」

 その時、女将の声が耳に入った。

「せいろよんまーいおふたりさーん」

 女将は絶え間なく板場へ伝え続けているのだが、二人の耳に偶然に入った。

「ほら、聞こえた?お二人さん4枚だって」

「聞こえました。今度来るときは2枚にします」

「ねっ、2枚が良いでしょう。丁度蕎麦湯が来ました。頂きましょう。じゃ、お先に」

 山本は自分蕎麦猪口にだけ注いだ。

「好みの濃さがあるから、ご自分でどうぞ」

 笑いながら言うと。森山はにっこり笑って、

「はい、頂きます」

 その笑顔が愛くるしい。可愛いくて胸がキュンとした。

 蕎麦猪口に少しずつ注いでいく。片手でそっと蓋を押さえたしぐさが良い。その指先が小さくて子供のようだ。

 山本はじっと見てしまった。森山は視線を感じたのか、

「このくらいで良いでしょうか?」

「丁度良いと思いますよ」

 そう言ったが山本は指先しか見ていなかった。森山が注ぐのを止めて聞いたから言葉に合わせただけである。

 顔を見合わせながら蕎麦湯を飲んだ。山本は蕎麦湯の話をしようと思ったがうんちく臭くて止めた。

「もう秋ですね。あんなに暑かったのが嘘みたいですね」

「カーディガン持って来て正解でした。急に涼しくなりました」

「台風の影響もあるらしいですが、今年は四季がはっきりしてます。山の紅葉は素敵でしょうね」

「お生まれは東京ですか?」

「いえ、福岡です。街中に生まれましたから山も海もありません」

「私は青森の山奥です。今頃、紅葉の真っ盛りだと思います」

「訛りがありませんね。東京の人かと思いました」

「とんでもありません。12年前就職で出て来た時は、人と話すのが苦手でした。何だか笑われているようで・・・」

「それは僕も同じです。僕は15年前になります。そうすると歳はあまり変わらないのですね」

「あら、どうしましょう。歳がわかってしまいました」

「そんなつもりはなかったのですが、嬉しいです。ずっと歳が離れていると思っていましたから」

「どう言う意味ですか?」

 少しにらむような、茶目っ気たっぷりな顔をして言う。

「もっとずっとお若いと思ってました」

「喜んで良いのかしら、どちらかしら?でも私は、山本さんがもっと年上だと思ってました」

 二人は顔を見合わせて笑い合った。

 マスクは年齢もわかり難くしてしまう。
                      つづく
次回は10月16日金曜日朝10時に掲載します