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      コロナのばかやろう!3.

 次の日、加奈子は樋口のアパートから一緒に出社した。身も心も充実して満たされていた。

 空はからっと晴れていた。加奈子の心は幸せ過ぎて陽光に輝く空のようだった。

 すれ違う人は、マスクをして寒さに身体を縮めるようにして歩いて行く。加奈子は少しも寒くなかった。

 黒のウールコートを着て、颯爽と駅に向い歩いて行く。心の中から身体中がふんわりと温かかった。

 加奈子は、時々樋口の顔を覗き込むように見る。にっこり笑って。樋口は照れくさそうに笑みを返す。


 新宿に着くと、山手線の内回りと外回りで別々になる。

「月曜日28日の退社後に行きます」

「うん、待ってるよ」

 加奈子は何度も振り返りながら階段を上って行った。

 付き合い始めて丸2年になるが、昨夜のような濃厚な夜は初めてだった。思い出すと身体が熱くなって来た。

 3日先まで会えないなんて嫌だ。樋口は加奈子の後ろ姿に魅かれるように階段を追いかけた。息を切らして、

「ね、今日帰って来て。お願い!」

「どうしたの?急に」

「明日から休みだろう」

「そうよ、土曜日ですもの」

「だから28日は、僕の家から今日みたいに出社すれば良いじゃない。今日帰って来てよ」

「わかったわ。着替えなど取りに帰って来るから、少し遅くなるわよ」

「良いよ。待ってる。夕ご飯は僕が作って置くね。カレー作るね」

「えっ、本当?作れるの?」

「黙ってたけど、僕の得意料理だよ」

「わー嬉しい!楽しみに帰るね」


 加奈子が帰って来たのが19時半を過ぎていた。ドアを開けるとカレーの匂いが漂ってきた。思わずお腹が鳴った。

「ただいま。良い匂い。お腹空いたわ!」

「お帰り!寒かったろう?」

「ううん、全然!だって、このコート凄く温かいんだものの。それにね、シンプルで品があるの。本当に素敵」

「そう言われると選んだ甲斐がある。嬉しいな」

 と言いながら少し照れて、

「それじゃ、カレー食べようね」

 手際よくテーブルに並んだ。野菜サラダが別皿に添えてあった。それに薬味に福神漬けと酢ラッキョウが並ぶ。

「おいしい!」

 加奈子は思わず口にした。

「これ、市販のルーを使ったの?信じられない。こんなにおいしくなるの?」

「そうだよ。おいしくする僕流のコツがあるんだよ」

「ね、教えて。どうやったの?」

「教えてあげる。一箱に対しての具材や水はその箱のレシピ通りだよ。違いは肉を炒める前ににんにくを3粒みじん切りにして良く炒める。そこへ肉を入れてさらに炒める」

「フーン、にんにくね」

「これからが大事なんだ。カットトマトの缶詰を1缶(400g)そのまま入れるんだよ。その分の水の量400㏄減らすこと。最後の仕上げにコンソメを1個、いちごジャムを大匙1つ入れるんだ。それがこのカレーだよ」

「割と簡単ね。でもこのカレー本当においしいわ。お代わり良いかしら」

「もちろんだよ。どんどん食べてね。僕、天才かも・・・」

「私もそう思うわ。毎日カレーにして貰おうかしらフフ」

 食事も終わりコーヒーを飲みながら、

「僕が片付けるから、お風呂に入って」

「えっ、お風呂湧いてるの。手回しが良いわね。でも片付けは私がするわ。あなたが先に入って」

「わかった。じゃ、そうする」

 樋口は返事をすると、押入れから布団を出し敷き始めた。昨夜のことが思い出され身体の血が滾るようだった。

 加奈子も思い出したのか、黙って食器を洗い始めた。なぜか身体がうずうずしてきた。

 2年の付き合いであるが、気を失う程感じたのは初めてである。思うだけで身体の芯がじわっと潤んで来た。
                       つづく
次回は1月8日金曜日朝10時に掲載します